
フィリピンには、海外企業の問い合わせ対応や事務処理、IT業務などを請け負うBPO企業が数多くあります。特に英語を使ったコールセンター業務では世界的な拠点として成長してきました。
2025年のフィリピンIT-BPM産業では約190万人が働き、年間収入は約403億ドルに達しています。
なぜフィリピンに、これほど多くの英語対応BPO拠点が集まったのでしょうか。
背景には、フィリピンで英語が長く教育や仕事に使われてきたこと、海外の顧客と英語で会話できる人材を確保しやすいこと、欧米企業にとって人件費を抑えながらサービス拠点を運営できたことがあります。
さらに現在のBPO産業は、電話対応だけではありません。銀行・金融、医療、IT、ソフトウェア、データなど専門性の高い業務へ広がり、AIの普及によって仕事内容そのものも変わり始めています。
この記事では、フィリピン留学専門エージェントのファーストイングリッシュが、フィリピンが世界的なコールセンター大国になった背景とBPO産業の現在、そこで英語がどのように使われているのかを解説します。
Contents
フィリピンは本当に世界的なコールセンター大国?

フィリピンは、英語を使ったコールセンターやBPOの世界的な拠点です。
フィリピン政府のBoard of Investmentsによると、フィリピンのIT-BPM産業は2010年の時点で音声系サービスにおいてインドを上回り、世界最大の供給国となりました。
その後、BPO産業は電話対応だけでなく、非音声業務、IT、金融、医療などへ業務領域を広げています。
フィリピンのIT-BPM産業は2025年に約190万人を雇用
フィリピンのIT-BPM産業では、2025年に約190万人が働きました。
IT and Business Process Association of the Philippinesの発表では、2025年の雇用者数は約190万人となり、前年の約182万人から4%増加しました。
売上も2024年の380億ドルから約403億ドルへ増え、400億ドルを超えています。
この約190万人には、コンタクトセンターだけでなく、IT、金融、医療情報、Global Capability Centerなど幅広い業務で働く人材が含まれます。
マニラ首都圏だけではなく、セブ、クラーク、ダバオなどにもBPOやIT-BPM企業が進出しており、海外企業向けの業務をフィリピン国内から行っています。
2010年には音声系BPOで世界最大の供給国に
フィリピンが特に強かったのが、電話で海外の顧客とやり取りする音声系BPOです。
フィリピン政府のBoard of Investmentsは、2010年にフィリピンが音声系サービスでインドを上回り、世界最大のサービス供給国になったとしています。
2011年には音声系サービスだけで約49万3,000人の直接雇用を生み、フィリピン国内BPO産業の雇用の64%を占めていました。売上でも音声系サービスが67%を占めていました。
フィリピンが「コールセンター大国」と呼ばれるようになった背景には、この音声系サービスの急速な成長があります。
現在は非音声業務の比率も高まっていますが、英語で海外の顧客へ対応するコールセンターがフィリピンIT-BPM産業の成長を支えてきたことに変わりはありません。
BPOはコールセンターだけを意味する言葉ではない
BPOはBusiness Process Outsourcingの略で、企業が自社で行っている業務の一部を外部の会社へ委託する仕組みです。
電話で問い合わせを受けるコールセンターは、その中の一つです。
企業によっては、メールやチャットでの顧客対応、経理や人事に関する事務処理、予約受付、医療情報の処理、ITサポート、ソフトウェア開発なども外部へ委託しています。
現在のBPOには、電話対応以外にもさまざまな業務が含まれています。
業界では「Information Technology-Business Process Management」を意味する「IT-BPM」という言葉が広く使われ、電話対応から専門性の高いデジタル業務まで含む産業へ発展しています。
なぜフィリピンに世界中のコールセンターが集まった?

フィリピンでは、英語教育、海外顧客とやり取りできる人材、北米市場との文化的な親和性、企業側のコスト競争力といった複数の条件が重なり、BPO産業が成長しました。
英語が教育や仕事で広く使われている
フィリピンでは、Filipinoと英語が公用語です。
1987年憲法では、コミュニケーションと教育における公用語としてFilipinoと英語が定められています。さらに2025年にフィリピン教育省が発表した方針では、KindergartenからGrade 3までの主要な授業言語をFilipinoと英語としています。
フィリピンでは英語が外国語の授業だけに使われているわけではありません。学校では科目を学ぶためにも英語が使われ、大学やビジネスの場面でも英文資料、メール、会議、顧客対応などで英語を使う機会があります。
BPO企業にとっては、学校教育などを通して英語を使ってきた人材を採用しやすいことが利点になります。
フィリピン人が英語に触れてきた教育環境については、フィリピン留学で講師の英語力は大丈夫?フィリピン人が英語に強い理由を解説でも詳しく紹介しています。
アメリカ企業の顧客対応と相性が良かった
フィリピンで英語が広く使われるようになった背景には、アメリカとの歴史も関係しています。
1901年、アメリカ統治下で公立学校制度が本格的に設けられ、英語が授業言語として使われるようになりました。その後も英語教育はフィリピンの学校制度の中に残り、現在まで長く使われています。
フィリピン政府のBoard of Investmentsは、音声系BPOにおけるフィリピンの競争力として、英語でのコミュニケーション能力と、西洋の消費者文化への適応力を挙げています。
アメリカ企業からすれば、問い合わせの内容を英語で理解するだけではなく、顧客が使う表現やサービスへの期待を踏まえて対応できる人材を確保しやすかったことが、フィリピンへ業務を移す理由の一つになりました。
海外顧客と会話できる人材を確保しやすかった
コールセンターでは、英語の知識に加えて、顧客の用件を聞き取り、必要な情報を確認して説明する力が必要です。
顧客が何に困っているのかを聞き取り、必要な情報を確認し、解決方法を順番に説明します。聞き取れなければ質問し直し、苦情や複雑な問い合わせにも英語で対応する場面があります。
フィリピンのBoard of Investmentsは、英語コミュニケーション能力とカスタマーサービスへの対応力を、音声系サービスにおけるフィリピン人材の競争力として挙げています。
若く、教育を受けた人材層を確保できることも産業の成長を支えてきました。フィリピン政府も、教育水準や英語力を持つ人材を投資先としての強みの一つに挙げています。
一方で、現在はデジタル分野の人材不足も課題になっています。フィリピン政府と業界団体は、AI、データ分析、サイバーセキュリティなど新しい分野の研修や人材育成にも力を入れています。
人件費を抑えながら英語対応の拠点を作れた
企業が業務を海外へ委託する大きな目的の一つがコストです。
英語圏の国で大規模なカスタマーサポート部門を直接運営する場合、給与、オフィス、採用、研修などに多くの費用がかかります。
フィリピンでは、英語で顧客対応できる人材を確保しながら、欧米と比べて人件費を抑えやすいことがBPO拠点としての強みになりました。
フィリピン政府のIT-BPM関連資料でも、人材の英語力とともに、コスト面での競争力が海外企業を呼び込む条件として挙げられています。
2026年のIBPAPは、今後の成長を単純な人員数の拡大ではなく、高付加価値な業務を担える人材やAIを使える人材へ軸足を移す方向を示しています。
フィリピンのBPOではどんな英語の仕事をしている?

フィリピンのBPOで行われている仕事は、電話対応だけではありません。
企業からどの業務を任されるかによって、使う英語も必要な専門知識も変わります。
電話やチャットで対応するカスタマーサポート
代表的なのが、海外企業の商品やサービスに関する問い合わせへ対応するカスタマーサポートです。
電話で顧客と話すVoice Supportだけでなく、チャットやメールで対応するNon-Voice Supportもあります。
たとえば、商品が届かない、アカウントへログインできない、料金について確認したい、予約内容を変更したいといった問い合わせに英語で対応します。
電話の場合は相手の発言をその場で聞き取り、確認しながら回答します。チャットやメールでは、文章から意図を読み取り、必要な情報を英文で返さなければなりません。
同じ英語を使う仕事でも、電話対応ではリスニングとスピーキング、チャットやメールではリーディングとライティングを多く使います。
銀行・金融・医療分野のバックオフィス業務
現在のフィリピンIT-BPM産業では、銀行・金融や医療も主要な業務分野です。
2025年の産業成長についても、IBPAPはGlobal Capability Centerの拡大に加えて、銀行・金融サービスやヘルスケア分野が成長を支えたとしています。
こうした業務では、顧客からの電話を受けるだけではなく、データの確認、書類処理、請求関連、金融事務、医療情報の管理などをフィリピン側で担当します。
専門分野になるほど、日常会話だけでは対応できません。英語で書かれた業務ルールや専門用語を理解し、正確に処理する力が求められます。
音声系サービスで世界的な地位を築いたフィリピンのBPO産業は、金融や医療など専門知識を使う仕事へも広がっています。
IT・ソフトウェア・データ関連の仕事も増えている
IT-BPMという名称にある通り、IT分野もフィリピンのアウトソーシング産業を構成しています。
ソフトウェア開発、ITサポート、エンジニアリング、アニメーションなどは以前からフィリピン政府が非音声・高付加価値サービスとして挙げてきた分野です。
現在はさらに、データ分析、AI、サイバーセキュリティなどのデジタルスキルが重視されています。
海外企業のシステムやデータを扱う仕事では、ITスキルだけを持っていればよいわけではありません。仕様書を英語で読む、海外拠点へ状況を報告する、オンライン会議で説明するなど、専門知識と英語を組み合わせて使います。
日本人がフィリピンで働く場合の求人や現地採用について知りたい方は、「フィリピンで働いて暮らす」は可能?日系企業の求人と現地採用のリアルな給与水準をご覧ください。
フィリピン人はBPOの仕事で英語をどう使っている?

BPOでは、顧客の用件を聞き取り、必要な情報を確認し、問い合わせを解決したり業務を進めたりするために英語を使います。
相手の用件を英語で聞き取り確認する
カスタマーサポートでは、最初から相手の用件が分かっているわけではありません。
顧客の話を聞きながら、何が起きたのか、いつ起きたのか、どの商品やアカウントについて話しているのかを確認します。
聞き取れなければもう一度尋ね、情報が足りなければ追加で質問します。相手が説明した内容を自分の言葉で確認し、認識が合っているか確かめる場面もあります。
このような仕事では、英語を一方的に話す力よりも、相手の話を聞き、その内容に合わせて次の質問を返す力が必要です。
聞く、質問する、聞き返す、内容を確認するといった双方向のやり取りが、BPOで使われる英語の特徴です。
英語のマニュアルを読みながら説明する
BPOの仕事では、自分の知識だけで顧客へ回答するわけではありません。
企業ごとのマニュアル、FAQ、業務ルール、社内システムなどを確認し、その内容に沿って顧客へ説明します。
たとえば、返金条件、アカウントの変更方法、商品の保証範囲などについて質問された場合は、決められたルールを確認しながら回答する必要があります。
英語で書かれた情報を読み、必要な部分を見つけ、それを相手が理解できる言葉へ変えて説明するため、リーディングとスピーキングを同時に使います。
仕事で英語を使う場合は、語彙力に加えて、必要な情報を理解し、相手へ伝わる形で説明する力も必要です。
海外顧客に合わせて発音や話し方をトレーニングする
フィリピンには、Contact Center Servicesの職業訓練もあります。
フィリピンのTechnical Education and Skills Development Authorityでは、Contact Center Services NC IIという訓練課程が登録されており、英語でのカスタマーサービス、ビジネスコミュニケーション、会話練習、実際の電話対応を想定したシミュレーションなどが含まれています。
企業内研修でも、商品知識だけではなく、相手が聞き取りやすい話し方、質問の仕方、説明の順番、電話での受け答えなどを練習することがあります。
目的はアメリカ人と同じ発音をまねることではなく、海外の顧客が聞き取りやすく、誤解なく用件を進められる話し方を身につけることです。
BPO向けの職業訓練では、英語そのものだけでなく、顧客対応で必要になる会話や応対方法も学びます。
AI時代もフィリピンのBPO産業は成長を続ける?

AIの普及によって、フィリピンのIT-BPM産業でも仕事内容が変わり始めています。
2025年の時点では産業全体の雇用と売上はともに増加しました。
IBPAPは2026年、今後の成長を人員規模の拡大よりも、高付加価値な業務とAIを活用できる人材によって生み出す方向を示しています。
AIで単純な問い合わせ対応は変わり始めている
定型的な質問への回答や文章作成、情報検索などは、AIを使って自動化しやすい分野です。
営業時間を答える、注文状況を確認する、よくある質問へ回答するといった業務では、チャットボットやAIアシスタントを利用できます。
そのため、定型的な問い合わせ対応では、人が担当する範囲が変わりつつあります。
一方で、複雑なトラブル、例外的な判断、専門知識が必要な問い合わせ、相手の意図を確認しながら進める対応では、人がAIを使いながら業務を進める形が重視されています。
コールセンターから高付加価値なIT-BPMへ広がっている
2026年7月、IBPAPは2028年に向けた新しい見通しを発表しました。
IBPAPは、今後の成長を単純な人員数の拡大だけで追うのではなく、より高い能力を持つ人材と高付加価値サービスへ移す方針を示しています。
2028年の売上は433億~505億ドル、雇用は185万~214万人と予測されています。
この見通しでも、IBPAPは人員数だけを増やすのではなく、AIを活用できる人材や高付加価値サービスを成長の中心に置いています。
2026年についても、IBPAPは売上約420億ドルを目標としており、Global Capability Centerを中心に海外企業からの進出需要が続いています。
英語だけでなくITや専門知識を組み合わせる仕事が増えている
フィリピンIT-BPM産業では、英語力に加えて、専門知識やデジタルスキルを求める業務が増えています。
金融業務なら金融の知識、医療情報なら医療分野の知識、ソフトウェア関連ならITの知識が必要です。さらにAI、データ分析、サイバーセキュリティなどのデジタルスキルも求められます。
フィリピン政府も、IT-BPM人材向けにコーディング、データ分析、AI、サイバーセキュリティなどを対象とした人材育成を進めています。
英語は、こうした専門知識を海外の企業や顧客と共有するための共通言語として使われます。
フィリピンのBPO産業は、英語による音声対応を中心とした産業から、英語と専門スキル、デジタル技術を組み合わせて海外企業の業務を支える産業へ広がっています。
フィリピンのBPO産業では英語が仕事の共通言語として使われている

フィリピンが世界的なコールセンター大国になった背景には、英語を使える人材を長く育ててきた教育環境があります。
アメリカをはじめとする海外顧客とのコミュニケーションに対応できる人材、豊富な人材層、企業側のコスト競争力が重なり、BPO産業は大きく成長しました。
2025年には約190万人が働き、売上は約403億ドルに達しています。現在の業務は電話対応だけではなく、チャット、バックオフィス、金融、医療、IT、ソフトウェア、データなどへ広がっています。
AIの普及によって仕事内容は変わっており、今後は英語にITや金融、医療などの専門知識を組み合わせ、AIを使いながら海外企業と仕事をする人材がさらに求められます。
フィリピンでは、英語は語学学校の中だけで使われる言葉ではありません。世界各国の企業や顧客と仕事をするための言語として、実際のビジネスの現場でも使われています。
マニラやセブのオフィス街にBPOやIT-BPM企業が集まっていることも、フィリピンで英語が仕事の言語として使われている一つの例です。
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